<第二章前編>
「ガァーー」」」
「ガラー」」」
「カァー」」」」
午前8時、
紺色ベースの色に塗られた三台の車が第5回、春季四輪駆動車運転技術関東大会兼夏期アジア4WDラリー予選会場に入り込んでゆく。
最初に入ってきたのが、スズキジムニーシエラJB43W H25年式、銀と紺のツートンカラーだ。護国高校の車両の中では、一番年式が新しく、小排気量の車だ。
続いて、トヨタランドクルーザーBJ46Vが低く乾いたディーゼル音を鳴らしながら、会場に入り込んでゆく。屋根が白いのが特徴だ。この車両は、最初に入場したシエラとは全く逆で、年式は一番古く、排気量は最大である。
最後に入ってきた車は、三菱ジープJ55。先に紹介した2台とは中間的な存在である。年式も、車格も、排気量も...ランクルと同じく、ディーゼルエンジンを積んでいる。
「ウウ~ 意外と早く着いたわね」
副部長の千歳がシエラから降り、背伸びをしながらそんな事を言う。
対して部長の長崎は何も喋らない。と言うよりも、彼は喋る気にはならなかったのである。約一時間半、あまり話したことのない女子に囲まれながら運転していたのである。朝5時起きの彼にはそれはとても辛かったのだ。
一年の大塚と要も部長の長崎と同じような状況に置かれていた。そう、ランクルの轟音を初めて聞いたからである。その為、二人は少しの間、愚痴をこぼしていた。
会場には、もう既に、開催者側が本部やサービスパークの準備を整えており、後は車体のコンディションを整えるだけで良い状態になっている。
護国高校のサービスパークは普通の大きさである。多くの車両を所有する強豪校は更に大きい。ただ、そのような高校は希で、普通は2~5台程度を所有するのが普通である。
今回参加する高校の数は15校。その中でも護国高校は弱くもなく、強くもない、中間に位置する高校だ。
「わ~!凄く広い会場ですね。千歳先輩!」
シエラから降りてきた咲がそういう。
「そうね。私が1年だった頃はもっと少なかったけど、今はとっても賑やかだわ。」
「これからもっと賑やかになると良いですね。」
「でもあんまり多くなりすぎるのも良くないけどね。」
「確かに、色々と運営とかが大変になりますものね。」
・・・・・・
『これから春季四輪駆動車運転技術関東大会兼夏期アジア4WDラリー予選、開会式を始める。全員起立!礼!』
『代表挨拶。 落合茂雄代表、よろしくお願いします』」」」...
以下、面倒なので割愛!
・・・・・・
「マジで代表の話長かったわ...」
開会式終了後、皆でサービスパークに戻る途中、由紀が呟く。
「まあ、しょうがないよ。おじさんおばさんていうのはこういう場になるとついつい話が長くなってしまういきものなんだよ。」
「そーいう割り切りができる咲っていいよね。」
「まあ、ね...」
「そう言えば一年今日なにすんの?」
「応援でしょ」
「応援だけなの?」
「他に何かすることある?」
「確かに...なんか、暇そうだな。」
「私をこの部に誘った本人が言う?」
「う、うん。まあ、良いよ。きっと良い一日になるから!」
「そうだね」
そんな事を言いつつ、サービスパークに戻ると、既に2、3年は車両の点検、調整、コースの確認を始めた。
コースは毎年異なるが、基本的にフラットダート、モーグル、マッド、岩場、ヒルクライム、ヒルダウンがあり、走行距離は約3キロメートルで年によって異なるため、3分間で走りきれるコースもあれば、10分間で走り切るコースもある。
今回は、スタート直後、200メートルの直線が待ち受けており、第一カーブ300m、小モーグル700m、大モーグル300m、ヒルクライム15m(前半25度、後半30度)、緩やかな下りカーブ85m、ストレート400m、池200m、マッド300m、カーブ500m、を経てゴールに辿り着ける。
ルールとして、走行中に車両が故障し、走行不能に陥った場合失格となる。また、横転した場合は近くの観客総出で起き上がらせるのが伝統だ。
車両は、エンジンオイルやデフオイル、ホイール、タイヤなどの消耗品以外の改造は許されておらず、純正状態ではなくてはならない。しかし、強度のある牽引フックに付け替えることは許されている。(というのも、もしスタックして牽引フックが壊れ、脱出作業に多くの手間が掛かり試合の運営に支障がきたしてはいけないからである。)
また、各車両によってクラス分けされており、1500cc未満が小型、1500cc以上で小型車枠に入るものは中型、同じく1500cc以上で大型車枠に入ると大型となる。なので、護国高校の保有車両で大型車クラスに出場できない。実に特殊な区分けである。同じ車でもグレードによって区分けが異なることだってあり得るのだ。
・・・・・・
会場にアナウンスが流れる。
『え~では、小型車、及び、軽自動車部門を始めます。参加する選手は本部前のスタート地点に走順に並んできてください。』
「あれ、俺ゴール地点で待っていたほうがいい?」
長崎が千歳に訊く。
「そうしといて。お願い。」
「バン」」
ボンネットに「No、6 護国」と書かれたゼッケンが付けられたシエラに千歳がヘルメットをかぶり乗り込む。
キーを差し込むと先ず甲高いセル、フライホイールの音が鳴り、戦いの始まりを告げた。
二速にポジションを合わせ、徐行でサービスパークからスタート地点へ向かう。それに続いて1年と、総順が後の方の部員は観客席の方に移動した。
スタート地点には先に走る車が既に並んでおり、千歳が操るシエラが到着した時点では5台が先に並んでいたが、最終的には7台の車が出場となった。また、同じ車を2名まで運転することができるので、実際にはもっと走るのである。
......
「ブロロロー」
今大会初めてスタートを切ったのはブリキのおもちゃのような形をした1000ccのジープ型四駆だ。(因みに幌)
『No,1 湯島高校 ダイハツタフトで、運転手は西島拓選手です。』
会場にアナウンスが流れる。
錆は多少あるものの、艶と性能は失っていないその車は小モーグルまでは快調そのもの。しかし問題は大きいモーグルからだった。
大モーグルの前で一時停止し、トランスファーをローレンジに入れる。停止している時間はタイムに入らない。
如何にも低いギアで走行しているような音を立て、モーグルに入ってゆく。
脚の伸びは完全に不足しているので、少し止まったりする。ただ、それを避けようとして無理に突っ込むと殆どの場合故障し、即失格となるのでそれはできない。
しかしタフトは軽量である為、重量級とは物が違う。たとえ止まったってそれきりではない。踏み込んでやればクリア出来るのだ。しかし、タイムロスであることには間違えない。
そして、ここでタフトの本当の欠点が浮き彫りになる。
「バコバコ...」
明らかに岩に鉄板が当たって凹む音だ。腹下の処理が上手くされていない車はこうなる。最悪の場合は走行不能になることだってありえることだ。しかし今の大会は長距離を走るものではないため、さして問題はなかった。
その後、ヒルクライムまではローレンジで行き、その後ハイレンジのみの走行となった。
結果は5分34秒21
それに続いて、スズキジムニーJA11、SJ30、スズキジムニーシエラJB31、ダイハツタフトF10等が走り、記録は次第に塗り替えられ、5分20秒を切る者もいた...
あとがき
やっとのことで車が動き始めました。
書き始めて分かりましたが、目茶苦茶難しいです。というのも、クロカンという「三次元スポーツ」を二次元の「文章」に表すものですし、登場人物は勿論、車両の特性に合わせて物語の構成も合わせなければいけません。特に考えるのは路面状況と、車両の状態で、どう表せば読んでくださっている人が想像しやすいかとか考え込むわけです。少し専門知識というか、その車を知らない人でないと分かってくれないような出来事も起きますが、後々、ピクシブに投稿する際はもう少しマイルドにしておくので、安心してください。何時になるかは全くわかりませんが...
とりあえず、終わるかどうかの気配さえも見えないこの話ですが、末永くお付き合いしてくれる人が居ることを願うばかりです。
☆今回登場した車。
スズキジムニーシエラJB43W
トヨタランドクルーザーBJ46V
三菱ジープJ55
ダイハツタフトF10
以上、こんな感じです。それでは、有難うございました。後半も宜しくお願いします。



0 件のコメント:
コメントを投稿